岡山県北の弁護士 津山総合法律事務所  

津山総合法律事務所(所長 弁護士黒田彬)

>
令和元年(ワ)第131号所有権移転登請求事件

 

 

岡山地方裁判所津山支部 

令和元年(ワ)第131号

所有権移転登記手続請求事件 

  岡山地方裁判所津山支部

   令和3年(ワ)第47号

  所有権移転登記手続請求事件

 

 

 

 

 

 

  

 

 

令和4年3月23日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 田中優樹

令和元年(ワ)第131号 所有権移転登記手続請求事件

令和2年(ワ)第24号 所有権移転登記抹消等反訴請求事件

口頭弁論終結期日 令和4年1月19日

               判       決

   岡山県津山市××××××××××

     本訴原告・反訴被告        ×   ×   ×   ×

                      (以下「原告」という。)

     同訴訟代理人弁護士        黒   田      彬

   ××県××市×××××××××××××××

   (別紙物件目録記載1の不動産登記記録上の住所)

      ××県××市×××××××××××××××××××

   (別紙物件目録記載2の不動産登記記録上の住所)

      ××県××市×××××××××××××××××××

     本訴被告・反訴原告        ×   ×   ×   ×

                      (以下「被告」という。)

     同訴訟代理人弁護士        ×   ×   ×   ×

                      ×   ×   ×   ×

             主         文

     1 原告の本訴請求を棄却する。

     2 被告の反訴請求をいずれも棄却する。

     3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを2分し,其の1を被告の負担とし,そ         

      の余を原告の負担とする。

             事 実 及 び 理 由

   第1 請求

    1 本訴請求

      被告は,原告に対し,別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載2の建物の被

     告の各持分について,原告から220万円の支払を受けるのと引換えに,令和元

     年×月×日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

    2 反訴請求

      ⑴ 原告は,被告に対し,別紙物件目録記載1及び2の不動産について,錯誤を

      原因として,岡山地方法務局津山支局令和元年×月××日受付第××××号の

      ××××持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ

     ⑵ 原告は,被告に対し,16万5000円及び別紙遅延損害金目録記載の対象

      金額欄記載の金額に対する起算日欄記載の日から支払済みまで年5%の割合

      による金員を支払え。

     ⑶ 原告は,被告に対し,令和2年3月から毎月1万5000円の割合による金

      員を支払え。

   第2 事案の概要等

    1 事案の概要

      原告は,××××(以下「被相続人」という。)の長女,被告は長男であり,

     被相続人は,令和元年××月××日に死亡し,原告と被告が相続した。本訴は,原

     が被告に対し,遅くとも令和元年9月21日の時点で,別紙物件目録記載の1及

     び2の不動産(以下「本件不動産」という。)の被告持分について,220万円

     で被告が原告に売るとの売買契約が成立した(以下「本件売買契約」という。)

     として,本件売買契約に基づき,代金220万円と引換えに,本件不動産の被告

     持分各2分の1の所有権移転登記手続を求めた事案である。反訴は,①原告は,

     本件不動産の持分2分の1について,被相続人から贈与を受けたとして,岡山地

     方法務局津山支局令和元年6月24日受付第9296号の××××持分全部移転

     登記(以下「本件移転登記」という。)を経ているところ,被相続人は当時認知

     症などにより意思能力がなかったとして,本件移転登記は無効であり,本件移転

     登記を錯誤により抹消登記手続をするように求めることが出来るところ,被告

     は,被相続人を相続したとして,本件不動産の所有権に基づき,保存行為として

     原告に対し,本件移転登記の抹消登記手続をすることを求めるとともに,②原告

     と被相続人は,本件建物1階について賃料1か月当たり3万円として賃貸借契約

     (以下「本件賃貸借契約)」を締結していたところ,原告が令和元年4月以降,

     賃料を支払っていないが,被告は,被相続人を相続し,その相続割合は2分の1

     であるとして,被相続人の原告に対する本件賃貸借契約に基づく賃料請求権及び

     被相続人を相続した被告の原告に対する前記同様の賃料請求権に基づき,令和元

     年5月から令和2年2月分までの未払賃料の2分の1に相当する16万5000

     円及び上記期間の賃料について各支払日(毎月15日)から支払済みまで平成

     29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定年

     5分の割合による遅延損害金並びに令和2年3月から毎月1万5000円の割合

     による賃料の支払を求め,賃料請求が認められない場合には不当利得に基づき賃

     料相当額の請求をした事案である。

    2 前提事実

      争いのない事実及び証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

     ⑴ 原告及び被告は,被相続人の子であり,原告が長女,被告が長男である。

     ⑵ 被相続人は,××××とともに,岡山地方裁判所津山支部に対し,××××

      を被告として,所有権移転登記手続を求める訴訟を提起し,昭和61年11月

      28日に訴訟上の和解をした(以下「昭和61年和解」という。)。昭和61

      年和解は,被相続人と被告は,××××との間で,津山市×××××××の土地建

      物(以下「別件不動産」という。)を,各2分の1の割合とし,代金1800

      万円で購入する,代金を月10万円で分割払いするなどの内容であった。(甲

      9)

               ⑶ 被相続人及び被告は,岡山地方裁判所津山支部に対し,××××を被告とし

      て,昭和61年和解に基づき,所有権移転登記手続などを求める訴訟を提起し,

      平成7年6月12日に訴訟上の和解をした(以下「平成7年和解」という。)。

      平成7年和解は,別件不動産の残代金を確認し,残代金の支払いに代えて,岡

      山県の別件不動産の買収代金から残代金額を××××が受領するなどの内容で

      あった。(甲10)

     ⑷ 岡山県と被告との間で,津山市×××××××及び同町××××3の土地及び

      その上の建物(被告の持分2分の1)について,土地を岡山県が取得し,建物

      を移転する補償金を岡山県が被告に対して1046万2600円万円を支払う

      との物件移転補償契約作成書が取り交わされている。(乙1)

       岡山県は,被相続人及び被告に対し,津山市×××××××及び同町×××××

      3の土地を代金3753万2040円【各持分2分の1で各自の代金は,18

      76万6020円】で買い取ったとの証明書,補償費は,被相続人が1126

      万円3600円(営業補償を含む。),被告が1048万9600円(営業補

      償は含まず。)との証明書を作成している。(甲6の1,7,甲7)

     ⑸ 別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)は,平成7年7月

      20日,被相続人及び被告が各持分2分の1の割合で取得したと登記されてい

      る。また,別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)は,平成

      8年3月20日に新築され,同年11月22日に所有権移転登記がされ,所有

      者は,被相続人及び被告である(持分各2分の1)。(甲2,3)

     ⑹ 本件不動産について,岡山地方法務局津山支局令和元年6月24日受付第9

      296号の××××持分全部移転登記(本件移転登記)がされている。

     ⑺ 被告の妻××××「(以下「被告妻」という。)は,本件不動産について,

      「土地建物売買¥2,200,000-」「諸経費は買主負担」「他後日請求

      額がある場合は乙が支払う」「今後一切異議申立てしない」などと記載し,令

      和元年9月21日の日付と被告の名前を記載し,被告の実印を推した書面を作

      成した(以下「本件売買メモ」という。)。本件売買メモは,原告が持ってい

      る。(甲16,証人××××(以下「証人××」という。)

     ⑻ 被告妻は,用紙中央に縦線を引き,その左側に原告の名前を記載し,「55

      0万」「207万」,葬儀代30万と記載し,縦線の右側に被告の名前を記載

      し,「560万」,葬儀代60万と記載した(以下「本件金額メモ」という。

      )(甲21)

    3 争点

     ⑴ 本件売買契約の成否

     ⑵ 本件移転登記が被相続人の意思能力により無効か

     ⑶ 本件賃貸借契約が終了したか

     ⑷ 本件不動産の賃料相当額の不当利得ふの成否

     ⑸ 賃料又は賃料相当額との相殺の可否

     4 争点に関する当事者の主張

     ⑴ 争点1(本件売買契約の成否)について

      (原告の主張)

      ア 被相続人は,被告に対し,本件不動産の持分を500万円で買い取る話を

       しており,被告は,本件不動産の価値が1000万円であると理解してい     

       た。また,被告妻は,本件金額メモを作成しているが,その中には,原告が

       被相続人の預金から引き出した550万円を取得すること,被告が被相続人

       の預金残高の約560万円(預金残高合計559万6001円)を取得する

       こと,葬儀代のうち,菩提寺へのお布施30万円を原告が,葬儀代60万円

       を被告が負担すること,簡易保険の保険金270万円を原告が受け捕ること

       が記載されている。そして,被告は,令和元年9月20日,津山信用金庫に

       対し,平成30年10月1日から令和元年9月20日まで預金取引明細書の   

       取得を依頼しており,期間を限定していることから預金の内容を調査するた

       めに取得したものでなく,原告が説明した直近の引出額を確認するために期

       間を限定したものであり,本件金額メモの内容で合意していた

      ィ したがって,令和元年9月21日までには,被告は,本件不動産の価値を

       理解しており,建物価格を除く土地の価格では,売買代金220万円が相当

       なものであること,被相続人の遺産分割については,本件金額メモのとおり

       に分割し,その内容を確認するために本件売買メモに被告が署名を求めた

       が,原告は,司法書士に相談し,本件売買メモには署名押印しなかったた

       が,同年10月20日の49日法要までに,同額での売買契約書に署名押印

       することに合意していた。

      ウ その後,原告は,被告に対し,被相続人が加入していた住友生命保険につ

       いて,被告が,被告妻を原告と偽って保険金を受領していたことを問いただ   

       したため,関係が険悪となり,220万円の売買契約に関する契約書は作成

       されて以内が,上記ィのとおりに,本件不動産の被告持分を220万円で取

       得するとの売買契約は成立している。

      (被告の主張)

      ア 本件不動産の売買契約が成立しているとの原告の主張は否認する。原告   

       は,当初,本件不動産の被告持分は被相続人のものであるとして本件訴訟を

       提起しており,提起後半年をして本件不動産の売買契約が成立していたと主

       張を変遷させたもので,本件不動産の売買契約が成立していないと原告が認

       していたことを推認させる。 

      ィ 原告は,本件売買メモにより本件売買契約が成立したことを裏付けると主

       張するが,原告は,本件売買契約を受け取り,被告にこんな金額を払えない

       と述べて本件売買メモの受け取りを拒絶しており,被告もこのような原告の

       態度に憤慨して交渉を打ち切っており,本件不動産の売買契約が成立してい

       ないことは明らかである。

     ⑵ 争点2(本件移転登記が被相続の意思無能力により無効か)について

      (被告の主張)

      ア 被相続人は,本件不動産について,昭和61年和解に被告が利害関係人と

       して参加し,その支払を負担するなどしているため,本件不動産の取扱いに

       ついて,被告にこれまで相談してきた。原告が本件不動産を利用する際に

       も,被告と相談し,賃料を支払うことになった。しかし,本件移転登記につ

       いては被告に相談しておらず,被相続人の意思によらずにされたものであ

       る。

       被相続人は,令和元年3月頃には認知症が進行し,車両を運転して外出し

       た際には自宅に戻られず,運転免許を返納していた。被相続人は,この頃に

       は,金融機関には預金の引き出しが困難になり,令和元年5月頃には,被告

       に指示をし,駐車ばの賃料の引落口座の残金を0とするなど,金銭管理もで

       きなくなるほど,能力が低下していた。

      ウ 本件移転登記については,移転登記に関し登記原因証明情報が作成されて

       いるが,被相続人の作成部分は押印されているのみで,このことから被相続

       人に意思能力があったとはいえない。

      ェ したがって,本件移転登記は,意思能力がない被相続人が原告に贈与をし

       たことが原因となるものであるが,贈与は無効であり,本件移転登記につい

       ては抹消登記手続がされるべきである。

      (原告の主張)

      ア 被相続人に意思能力がなかったとの主張は否認する。被相続人は,世話し

       ていた原告に本件不動産を贈与する意向があり,被告に本件不動産の持分を

       500万円で買い取ると申し出たが被告に断られた。このため,被相続人の

       持分を原告に贈与した。駐車場は,被相続人が所有している車両のために借

       りていたが,運転免許を返納し,使用していた車両を現億の長男に貸与いた

       ため,被相続人が駐車場を使用することができなくなったため,引落口座の

       残高を0円としたが,何らかの理由で賃貸借契約が解除されていないにすぎ

       ない。う

      ィ したがって,本件移転登記の原因となった贈与は有効である。

     ⑶ 争点3(本件賃貸借契約が終了したか)について

      (原告の主張)

       被相続人と原告は,本件不動産について,賃貸借契約を締結した。しかし,    

      被相続人は,令和元年5月ころ,本件不動産を原告に贈与するとの意思を示し

      ,本件不動産の賃料の支払も不要であるとの意向を示し,令和元年6月には本

      件不動産の持分を贈与している。したがって,本件賃貸借契約は消滅してお

      り,被告の賃料請求は理由がない。

       原告は,被相続人の本件不動産の持分は2分の1であり,共有物の管理をす

      る権限はないと主張するが,他人物賃貸借契約は有効であり,これを解除する

      のも単独でできるから,被告の主張は理由がない。

      (被告の主張)

       原告の主張は否認する。

     ⑷ 争点4(本件不動産の賃料相当額の不当利得の成否)について

      (被告の主張)

       仮に,本件不動産の賃貸借契約が終了しているとしていても,被告は,本件

      不動産の持分2分の1を有している。しかるに,原告はその不動産を全部使用

      しており,被告の持分を侵害している。本件不動産の賃料相当額は,3万円で

      ある。よって,不当利得に基づき,賃料相当額の2分の1の支払を求める。

      (原告の主張)

       原告は,本件不動産について,令和2年及び令和3分の固定資産税として,

      20万5300円を支払っている。被告は,本件不動産の持分2分の1を所有

      しており,上記金額の2分の1の10万2650円を負担すべきであり,被告

      の支払うべき金額を原告が立替払したものである。

       よって,上記金額と賃料債権等とを対等額で相殺する。

      (被告の主張)

       争う。

         第3 当裁判所の判断

     1 前提事実に加え,証拠(原告本人,被告本人,証人××【いずれも各項記載の

     証拠に反する部分を除く】及び各項記載の証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下

     の事実が認められる。

     ⑴ 被相続人は,××××とともに,岡山地方裁判所津山支部に対し,××××

      を被告として,所有権移転登記手続を求める訴訟を提起し,昭和61年11月

      28日に訴訟上の和解をした(昭和61年和解)。被告は,昭和61年和解を

      機に,津山市内に戻って被相続人と同居し,和解金の支払を負担していた。

      (前提事実,被告本人)

     ⑵ 被相続人及び被告は,岡山地方裁判所津山支部に対し,××××を被告とし

      て,昭和61年和解に基づき,所有権移転登記手続などを求める訴訟を提起

      し,平成7年6月12日に訴訟上の和解をした(平成7年和解)。平成7年和

      解では,別件不動産の残代金を確認し,残代金の支払に代えて,岡山県の別件

      不動産の買収代金から残代金を××××が受領するなどの内容であった。(前

      提事実)

     ⑶ 被相続人は,自分の補償金と被告の補償金で,本件土地を取得し,本件建物

      を建築した。被告は,当時,広島県呉市に居住しており,生活の面では被告妻

      の実家の援助もあって困っていなかったから,全額を被相続人のために使うよ

      うにしたが,このような経緯があり,本件不動産は,被相続人と被告の共有と

      なった。(前提事実,被告本人)。

       原告は,上記訴訟に関し関わっていないため,詳しい事情は聞かされていな

      おらず,本件不動産に被告の持分がある理由を理解していなかった。(原告本

      人)

     ⑷ 原告は,本件不動産1階で美容院を営むこととなった。被告は,被相続人か

      ら相談され,賃料をとるのであればよいのではないかと返答した。原告は,被

      相続人に賃料として,月額3万円を支払うことになった。原告は,遅くとも平

      成23年1月14日以降,被相続人の中国銀行津山支店口座に毎月3万円を入

      金し,同口座からは駐車場代金月額1万円が引き落とされていた。原告は,平

      成31年4月25日に3万円を入金したのを最後に入金しておらず,令和元年

      5月7日に残高の全額21万7600円が引き出された。原告は,同口座から

      駐車場代金が引き落とされていることを認識していなかった。(甲11,原告

      本人)

     ⑸ 被相続人は,平成25年頃,被告に対し,本件不動産の被告の持分を500

      万円で買い取るという提案をした。(原告本人,被告本人)。

       被告は,被相続人の提案でも構わないと考えていたが,原告が反対したため

      にその提案は実現しなかった。

     ⑹ 被相続人は,令和元年頃には,認知症が進行していっていた。しかし,認知

      症の症状は日によって違っており,しっかりしている日もあれば,はっきりし

      ない日もあり,このことは被告妻や原告の子も認識していた。被相続人は,日

      常的に使用しているスーパーなどであれば,車で行って買い物をすることはで

      きたが,だんだん周辺以外の場所の記憶が出来なくなっていき,原告の家族

      は,このまま認知症が進行していき,行った場所から戻れなくもとでなると困

      るので,被相続人と話して運転免許を返納した。免許返納後,被相続人は,場

      所の認識がますますはっきりしなくなった。(乙2)

     ⑺ 被相続人は,預金から引き出した金銭は自分で管理し,家族にもをしその管

      理を任せていなかった。その後,被相続人は原告に通帳の管理を任せるように

      なり,被相続人は,原告に金銭の引き出しなどと頼んでいたが,原告に対して   

      お前は取らないだろうななどと確認し,自分で管理していた。

       被相続人は,ゴールデンウイークの時期から,被告妻や原告の家族が来た時

      に,いつもと違って小お金を渡すことがあり,普段と様子を変わっていたと感

      じていたが,そのような時期でも,普段世話をしている原告には厳しい言い方

      をしていた。しかし,入院する前の時期には,原告の家族が被相続人に買い物

      してきたと伝えると,代金を封筒から取るようになどと言うため,普段は被相

      続人が管理する金銭を家族に任せて来なかったことから,原告の家族は認知症

      が進むようになっていると感じていた。

     ⑻ 本件不動産について,岡山地方法務局津山支局令和元年6月24日受付第9

      296号の××××持分全部移転登記(本件移転登記)がされている。

       本件移転登記手続は,××××司法書士(以下「××司法書士」という。)  

      が代理してなされており,登記原因証明情報には,被相続人及び原告の実印が

      押されている。登記手続については,登記済証,印鑑証明書,住居証明情報,

      代理権原証明情報が提出されている。(甲39)

     ⑼ 被相続人の津山信用金庫の口座からは,以下のとおりに引き出されている。

      ア 本店口座(乙4の1)

        令和元年5月30日  100万円

        令和元年8月26日  550万円

        残高          66万1168円(令和元年9月15日時点)

      ィ 西支店口座(乙4の2)

        令和元年7月17日  130万円

        残高         493万4833円(令和元年9月17日時点)

      ウ 上記の引出しは,いずれも原告が払戻請求書に署名押印してしたものであ

       る。(乙6ないし8)

     ⑽ 被相続人は,令和元年××月×日頃,体調に異常を感じて通院し,X線写真に

      異常所見があったため,津山中央病院に緊急搬送され,癌であることが判明し

      た。被相続人は,令和元年××月××5日に死亡した。(乙2,原告本人)

     ⑪ 被相続人が死亡後,原告は被告人に対し,被相続人の通帳を見せた。被告      

      は,原告,原告の娘,被告妻と共に,津山信用金庫などの金融機関に赴いて取

      引明細の開示を求めた。津山信用金庫には,平成30年10月から令和元年8

      月までの取引履歴の開示を求め,同日付の取引履歴が作成されている。(乙4

      の1,2,乙6)

     ⑿ 被告及び被告の妻は,令和元年9月21日に,住所地の××県××市に戻るこ

      戸になった。被告は,原告が被相続人の預金を引き出したことを知って立腹し

      ており,話し合いができる状態になかったことから,被告妻は,きょうだいで

      争って欲しくないと考え,本件不動産の前に置いた被告家族の車両の中で,原

      告の提案を記載し,被告の実印を押した本件売買メモを作成した。被告は,原

      告に本件売買メモを渡したが,原告は,その場でその内容に了承しなかった。

      (甲16,被告本人,証人××)

       原告は,本件不動産の被告持分を220万円で買い取る話を進めることとし

      たが,被告が次に津山市へ来る被相続人の49日法要を行う日が日曜日であっ

      たため,××司法書士から書類作成に立ち会えないと言われ,××司法書士に

      依頼することとし,××司法書士が被告に連絡を取った。しかし,被告は,×

      ×司法書士に売買契約書を作成することに了解しなかった。(乙40の1,

      2,原告本人)

             2   争点1(本件売買契約の成否について)

     ⑴ 前記認定事実のとおり,本件売買契メモを被告は原告に交付したが,原告は

      その内容を了承しておらず,本件売買メモ記載内容のような売契約が成立して

      いるとは認められない。そして,被告は,その後,本件売買メモに記載された

      代金額220万円での売買を承諾しておらず,その後にも本件売買契約が合意

      したと疑わせる事情もなく,本件売買契約が成立したとは認められない。

     ⑵ 原告は,本件売買契約の付随的な内容を××司法書士に確認したところ,本

      件売買メモの内容に署名をしないほうがよいといわれたが,令和元年9月21

      日には,司法書士の作成する書面に被告が署名することを前提に話が進んでお

      り,同日に売買契約が成立したと主張し,尋問後に同日のやり取りに関する反

      訳(甲40の1,2)を提出している。

       しかし,被告妻は,原告と被告とのきょうだい間の紛争を避けるため,本件

      売買メモを作成したと述べ,代金額以外の部分の内容は今後の負担の一切を原

      告が負担することを内容と「しており,その紛争を解決するために重要な内容で

      あり,被告もこのことを理解して原告に交付しているところ,原告はその内容

      に承諾していないというのであるから,そうすると,本件各不動産の被告の持   

      分2分の1の売買契約を成立させることで全ての紛争が解決するという被告の

      提案を了承していないのであるから,本件売買契約が成立していたとは認めら

      れない。また,上記反訳書当は,当日のやり取りの最後の部分と言うのである

      から,本件売買メモに関するやりとりが直接に提出されておらず,その信用性

      には疑問がある上,被告は,本件不動産の登記に関する書面が送付されてきた

      場合には対応すると述べているものの,押印して返送するとは述べておらず,

      この段階では合意に達していたことは認められない。

     ⑶ 原告は,本件金額メモで遺産分割の合意が整い,これを前提として本件売買

      メモが作成されたと主張するが,本件金額メモを作成した被告妻はその経緯は

      記憶していないと述べており,本件金額メモが合意内容を示す重要なものとい

      う理解があって作成したものでないことが窺われる上,原告及び被告の記載部

      分もなく,双方の合意した内容を記載したものとは認められない。

     ⑷ 以上によれば,双方の合意した内容を記載したものとは認められない。

    3 争点2(本件移転登記が被相続人の意思能力により無効か)について

     ⑴ 前記認定事実のとおり,被相続人の認知症が進行していたことは認められる   

      が,その程度がどの程度であったかの客観的な証拠も提出していない。そして

      ,前記認定事実のとおり,被相続人は基本的に一人で生活していたこと,日に

      よって状態に変化があったこと,令和元年5月頃も自分で金銭を管理していた

      こと,免許がなくなって車を運転しなくなると,買い物等には基本的に自分で

      行かないようになったが,それまでは自分でスーパーや買い物などにも行って

      いたこと,その後も,原告や原告の家族らに買物などを頼み,生活上必要なも

      のを手配して一人で生活を続けていたこと,金銭の管理についても,通帳から

      の引出し等を原告に頼むこともあったが,原告が勝手なことをしないかなどと

      原告には言って管理していたことが認められる。そうすると,被相続人は,一

      定の認知能力の低下があったが,これによって意思能力がなくなっていたとま

      では認められない。

     ⑵ 被告は,被相続人の認知症が進行していたと主張し,被告本人もその旨の供

      述をする。しかし,認知症であったというだけで意思能力が喪失したとは認め

      られず,事理を弁識する能力が減退し,行為の意味を理解出来ない程度に減退

      していると認められる必要賀ある。しかし,本件移転登記の時点において,一

      定の財産管理を行っていたことが認められること,本件各不動産の被相続人の

      持分を贈与することは,複雑な法律行為とまではいえず,その意味が理解でき

      ない程度に被相続人の事理弁識能力が低下していたとは認められない。

       被告は,被相続人が本件不動産に関することは被告にいつも相談しており,   

      このような相談がなかったことから,被相続人の意思によらないと主張する。

      しかし,被告は,被相続人に対し,本件各不動産についても,原告と被告とで

      2分の1であると理解していると説明していたというのであるが(被告本人,

      18頁),そうであれば,被相続人が被告の意向に反しないと考えて説明して

      いなかったとしても不自然とはいえない。

     ⑶ 以上によれば,被告のその余分の主張を検討しても,本件移転登記当時,被

      相続人が意思無能力であったと認めるに足りない。

    4 争点3(本件賃貸借契約が終了したか)について

      原告は,本件各不動産の被相続人の持分を原告が取得することとなり,その頃

     に,被相続人が原告に賃料の支払を要しないと述べたと主張し,これに反する証

     拠はない。被告は,被相続人が,賃料の引落口座に賃料が入金されていることを

     認識しており,原告の賃料が入金されなくなれば,被相続人は駐車場に関する賃

     料を支払えなくなることを認識していたのであるから,原告が賃料を同口座に入

     金せず,これを全額引き出すようなことを了承することはなく,そのような合意

     はないと主張する。しかし,賃借していた駐車場の使用の予定もなくなっていた

     というのであるから,賃貸借契約を解除すればよい都も考えられ,原告と被相続

     人との間で賃貸借契約が終了したとの原告の主張を排斥する事情ともいい難い。

      そうすると,原告と被相続人は,本件不動産の持分を原告に贈与することで賃

     貸借契約を解約することに合意した(なお,原告は,当初,本件不動産が全部被

     相続人に帰属することを前提として混同したと主張しているが,現在の主張を前

     提とすれば,合意解約の趣旨で主張するものと理解できる。

      以上によれば,被告の賃料請求に関する請求についても理由がない。

    5 争点4(本件不動産の賃料相当額の不当利得の成否)について

      被告は,原告が本件不動産を使用しており,本件不動産の持分を越えて使用し

     ているから,不当利得して賃料相当額の支払を要すると主張する。しかし,原告

     は,本件不動産の1階部分と駐車場を使用しているというのであるから(原告本

     人),原告の持分を越えて使用していると認めるに足りない。

    6 以上によれば,原告の本訴請求及び被告の反訴請求は,争点5について判断す

     るまでもなくいずれも理由がない。

      よって,主文のとおり,判決する。

       岡山地方裁判所津山支部

 

                裁判官      小   山   慶 一 郎